Excel殺人事件

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(4) 鑑識から

午後、すっかり二日酔いの覚めた佐々木は、仕事を始めた。犬山刑事も午後になってやっと調子が戻ったようであった。犬山は、昼休みにいつもの特性ドリンクを飲んだのであろう。犬山の特性ドリンクは、居酒屋「熊」のもので、午後から仕込を始める「熊」に行って作ってもらうのである。中身は、どうやら果物類、蜂蜜などをジュースにしたものらしい。犬山は、これを二杯飲むのである。いつも効果覿面のようである。 
「おーい、佐々木、調子はどうだ。」やっと犬山から声が掛かった。 
「やっと良くなってきました。」 
「ばかやろう、体調じゃなくて、目星はついたのかどうか聞いているんだ。何時まで経ってもかみ合わないやつだなー。」 
「あー、すみません。一応四人ほど上げてみました。」 
「おーそうか、じゃーまとめるぞ、こっちへ来い。」 
犬山と佐々木は、過去の事件ファイルから容疑者らしい人物をリストアップしようとしていたのである。二人は、リストアップした人物について、事件を起こす前に内偵をしようというものであった。いたずらの可能性もあるが、事件を未然に防げればそれに越したことはないのである。リストアップは、犬山流のプロファイリングに基づいて、行われた。佐々木は、少し偏ったこのリストアップに疑問を持ったが、犬山の刑事としての勘を信用することにした。二人は七人の人物をリストアップし、課長に報告しようとした時、逆に青柳課長から第二会議室に来るように声が掛かった。 

 

やっと鑑識からの報告であった。会議室に集まったのは、青柳課長、鑑識の担当者、犬山、佐々木、それに大垣刑事である。大垣刑事は佐々木と同じ独身寮に住むまだ二年目の刑事で、いろいろな経験をさせるために課長が呼んだのである。鑑識の報告は、まずフロッピーとそのフロッピーの入っていた封筒の指紋は、やたらと数が多く識別不可能と言うことであった。どうやらセロハンテープ類でそこら辺の指紋を張り集め、意識的に多数の指紋をつけたらしい。鑑識も指紋からの追跡はすぐにあきらめたとのことであった。フロッピーの中身は、佐々木が美紀に教えてもらった隠し行にあったあの警察に対する挑戦という言葉が見つかったと言うものであった。投函場所は、驚いたことにこの警察署に近いところであるらしい。また、フロッピー自体の製造メーカについても話があったが、数年前に製造されたもので、国内で一二を争う数が販売されており、追跡不可能と言うものであった。 
結局、鑑識からの報告は、佐々木にとって何一つ新しいものはなかったが、会議室では、警察に対する挑戦の言葉が一体何を意味するのかいろいろと憶測が飛んだ。 
犬山が 
「一体この言葉をなぜ隠していたのか、単なる思い付きか、いたずらか。どうだ佐々木この隠し行は簡単に作れるのか」 
「ええ、少し勉強しただけですが、簡単ですよ」 
と言いながら鑑識の担当者が説明に使ったパソコンの画面で美紀に習ったばかりの非表示を作って見せた。 
「何だ、そんなことで出来るのか。うーん。」と言って黙ってしまった。 
すると青柳課長が言った。 
「これは多分、この言葉を強調するためだろう。普通は文字サイズを大きくするとか、色を変えるなどの書式を変更する方法があるが、これは逆に隠すことで我々がこうして騒ぐことを予想した強調だよ。まあ、警察に対する恨みを何か持っていることは確かだろうね。」 
「まあ、このことはいくら推測してもしょうがない。ところで犬山さん何かめぼしはついたかな?それとここまで解ったことから、この事件をどう見るか聞きたいのだが。」 
犬山は、「分かりました」と言って少し咳払いをしながら立ち上がり、次のようにまとめた。

当初この事件は、いたずらの可能性が高いと思っていたが、指紋や隠し行のことなどを考えると、いたずらではなく何らかの事件を起こす可能性が高いこと。フロッピーが届いて今日が二日目で、一週間以内に事件を起こすとすれば、あと五日間しかないことを述べた。また、本当に事件を起こすとすれば、一週間以内と言っているので、六日目か七日目が最も可能性が高いとも述べた。それから犬山が過去に関係した事件から七人をリストアップしたのだが、内偵できる日を考えると、七人すべてを内偵するのは無理であり、更に三人に絞りたいと言い、犬山自身がリストアップした三人の名前をあげた。
最後に、鑑識からの報告によって状況が変わったので、内偵を三人に絞る同意を佐々木に求めた。

佐々木は、自分がリストアップした四人が入っていないので少し不機嫌になったが、先輩の意見に従わざるを得なかった。犬山は佐々木がリストアップした4人は、町のチンピラや暴力団関係者であり元々重要視していなかったのである。
犬山がリストアップしたのは、次の三人である。
・ 任田 洋右(とうだ ひろお)(29、爆弾マニア、器物損壊など、サバイバルゲーム)
・ 貝地 六生(かいじ むつお)(26、改造拳銃、器物損壊など、サバイバルゲーム)
・ 大平良 一民(おおたいら かずみ)(23、窃盗、)
任田と、貝地はサバイバルゲームの仲間で、4年前、二人は”井之下公園”で小型の手製爆弾を爆発させ器物損壊などで逮捕されている。大平良は、二人とは無関係な窃盗犯であるが知能犯で、犬山の活躍で逮捕されたものである。
犬山の説明が終わった後、青柳課長は、
「よっし、その方向でいいだろう。すべて犬山さんにまかせる。」
といつもの犬山頼みの言葉を言いながら、大垣刑事を加え三人で内偵するよう指示した。
会議の後、新たに加わった大垣は、犬山と佐々木に
「勉強させてください。」と新米刑事らしく頭を下げた。
すると大山は、
「勉強はいいけど、足を引っ張るな。しっかりついて来い。」と言ってニヤリと笑った。

 

三人の刑事は、早速外へ飛び出し、まず、リストアップした三人の現住所の確認に動いた。思ったより簡単に三人の住所は確認できた。三人とも市内へ住んでいて、任田と貝地の二人は事件前と同じく南署の管轄区域内の親元へ住んでいた。大平良は、引っ越していたものの北署の管轄区域のアパートに住んでいる事が確認できた。
「よっし、今日はここまででいいだろう。動くとは思えないからこれで終わろう。」と言う犬山の言葉で、この日は終わった。
佐々木は、大垣刑事に刑事の心構えなどを話しながら帰宅の途に着いたものの、心の中に何かいやな予感が去来するのを拭えないでいた。 

(4)鑑識から 終わり

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