Excel殺人事件

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(2) 刑事課で

佐々木が刑事課に戻り、犬山に報告すると刑事課は騒ぎになった。まず、犬山からは、何処をほっつき歩いてるんだとか、時間がかかりすぎるだとか散々言われ、「ばかやろう」 を連発されてしまった。青柳課長からは、事件性のあるものは、すぐに鑑識にまわすのが常識だとののしられた。すでに、 フロッピーは、佐々木を始め、犬山と美紀が素手で触っており、指紋の識別に時間がかかるのだ。元々は、犬山の命令でフロッピーを調べたのだが、課長は年上の犬山には、言いづらかったのか、佐々木を怒ったのであった。結局、鑑識にフ ロッピーとフロッピの入っていた封筒が渡されたのは、しばらく経ってからのことであった。
刑事課が騒ぎになったのは、南署の管轄区域では、こうした予告殺人のような事件は、はじめてであり、また殺人事件そのものも少ないからであった。しかし、ここ南署のあるM市は、多摩地域とは言え東京都下であり、年に数件の殺人事件や凶悪な強盗事件などが起こっているのである。
早速、課では会議がもたれ、課長は、次のように言った。まず、単なるいたずらの可能性もあり、冷静に対応すること。 犬山が過去に関係した事件の関係者かもしれないので調べる こと。当面は、犬山と佐々木で担当すること。鑑識の調査結果を待って、もう一度対策を練ることなどであった。
会議のあと犬山は、佐々木に言った。
「いいか、佐々木、今日から過去に俺が担当した事件を調べるから手伝え。それからおまえはそのエクセレントとかExcelとか言うパソコンを勉強しろ、いいな。」
「はい、でもなぜExcelの勉強を?」
「ばかやろう、エクセレントいやExcelで来た予告なんだぞ、 それを勉強すれば、何か解決の糸口が見つかるかもしれないじゃないか、ばかやろう。」
「はい、解りました。」
佐々木は、Excelの勉強と聞いて、思わずほくそえんでしま った。これで美紀に会う口実ができると、思ったからである。 この日、犬山と佐々木は、過去の事件の洗い出しのため遅くまで残業となった。

 

 午後八時頃、少し遅い夕食の出前を食べながら佐々木は、ふと頭に浮かんだことを犬山に言った。
「先輩、この殺人予告は、ひょっとして先輩自身が標的かもしれませんよ。」
「はっははは、ばかやろう笑わせるんじゃない。飯がのどの詰まるじゃないか。」
「いや、こうして先輩が関係した事件を調べると、かなり凶悪なものもありますし、暴力団絡みの事件もありますからね。」
「佐々木、おまえもまだまだ経験不足だな。いいか、こういう事件は、凶悪事件の犯人ではないと思うよ。一種の知能犯だろうからネ。凶悪犯なら殺人予告などするものか。予告なしで実行するだろうよ。それに、俺は、この事件を単なるいたずらか、愉快犯の可能性が高いと思っているよ。過去の事件に関係あるとしても気の弱い、普段はおとなしい、あまり目立たないやつだと思うな。過去にそうたいした事件は、起こしていないと思うな。」
「それって、先輩のプロファイリングというやつですか、さすがですね。」
「はっはは、まあ、経験から言えることだが、一種のプロファイリングだな。」
この言葉で犬山は、すっかり機嫌が良くなった。
一応の調べが終わったあと、いつものように佐々木を居酒屋「熊」の”分室”へ誘った。

 

「熊」は、定年退職した愛称「熊」さんがやっている居酒屋で、刑事課の溜まり場でもある。「熊」は、そう大きい店ではないが、刑事課専用のような小部屋があって、そこでは少々事件についてしゃべってもかまわないのだ。刑事課ではこの部屋の事を”分室”と呼んでいる。刑事課員のストレス発散の場所である。
分室に来ると犬山は、つい癖で過去の手柄話を延々としてしまうのだが、今日のはさらに詳しく、熱を帯びている。聞き役の佐々木も、いつもの相槌とは違い、何か事件を解決する糸口がないかと真剣さがある。
二人とも酒は弱い方ではないので、深酒になってゆく自分自身を自覚 しながら、深い酩酊へと落ちていった。

               

(2)刑事課で  終わり       

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