Excel殺人事件

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(1) 謎のフロッピー 

何か退屈な昼下がり佐々木刑事がぼんやりしていると、いつもの声が飛んできた。
「おーい佐々木。これは何だ。」
「はい」と言って佐々木刑事が振り向くと、コンビを組んでいる先輩の犬山刑事が、フロッピーを手にしていた。
「それフロッピーて言うんですよ。知らないんですか。」
「ばかやろう。いくらパソコンができないからと言っても、それくらいは知ってるぞ。ばかやろう。」
犬山刑事の"ばかやろう"は、口癖である。刑事課の最年長者なので誰にでも"ばかやろう"を連発する。根は優しい人なのだが口が悪いのだ。陰では、"ばかやろう刑事"と呼ばれている。
しかし、佐々木は、犬山のことを尊敬している。時々ヘマもやるが過去には、いくつかの難事件を解決しているのだ。
「中身はなんだと聞いているんだ。」
「さあ。持ち主に聞いてくださいよ。俺のものじゃありませんから。」
「ばかやろう。まったく頭の悪いやつだ。差出人不明で俺のところに送られてきたんだ。中身を調べろと言ってるんだ。」
「はっはい。」
佐々木は、フロッピーを手にとってみた。タイトルも何も書いていない。
「2HDですからパソコンですね。」
「早く調べろ」
犬山の声が飛んだ。
刑事課のパソコンで佐々木が調べ始めた。しばらくすると佐々木が首をひねり始めた。
「おかしいなあー、何もないですよ。Excelのファイルが一つ入っているんだけど、何も書かれていないですよ。」
犬山も覗き込んだ。
「真っ白だが、この碁盤の目のような線はなんだ。」
「ああ、これですか。これは、Excelのセルの区切りを表示する枠線ですよ。このセルの中にデータや数式を入れたりして使うんですが、実は俺、Excelは、詳しくないんです。」
「何だ、おまえいつもパソコンは、面白いなんて言ってて、本当は大してできないのか。ばかやろう。誰か詳しいやつに聞いて早く調べろ。」
佐々木は、犬山のこの言葉で少し傷ついた。確かにExcelは詳しくないが、Wordなら結構できるし、それに最近パソコンを買い換えインターネットだってやっているのにと思ったが、犬山にいくら説明しても分かってもらえないだろうと思い、口をつぐんでしまった。
「では、少し聞いてきます。」
佐々木は、不機嫌にそう言って刑事課を出た。

 

廊下に出ると佐々木は、もう機嫌が良くなっていた。向かう先は、交通課の美紀ちゃんと呼んでいる宮園美紀のところなのだ。美紀とは、同期会の仲間である。同期会といっても今年、南署に配属された6人で作ったもので、本当の新人は、宮園美紀を含め3人の女性で、残り3人の男は、人事異動で他署から配属されたのである。3人の男がたまたま独身だったので、年上の大塚の発案で強引に作った同期会である。男3人の目的は、美人の美紀である。佐々木刑事は、廊下を歩きながら、そうだ美紀のメールアドレスを聞こう、と思った。2週間前の同期会のときに美紀がパソコンに詳しく、友人とメールのやり取りを結構やっていることを聞いたのだ。やつらに一歩先んじるのだ。佐々木の鼻息はだんだん荒くなってきた。 
意気込んで交通課に行くと美紀は、パソコンの前に座っていた。
「やー元気。」
ニコニコしながら佐々木は、美紀に声をかけた。
「あーこんにちは」 きれいな美紀の声が帰ってきた。
「忙しそうだね。実は最近パソコンを買い換えたんだ。そこで、同期会の仲間とメールをやろうと思ってね。美紀ちゃんのメールアドレス教えてよ。」
佐々木は、さりげなく言った。
「ええ、いいわよ、そう言えば佐々木さんは、携帯は持っていないんだったわよね。」
「ああ、携帯は、刑事だから仕事で持たされるんだよ。個人で持つと混同するから止めたんだ。」
「昨日は、大塚さんと脇田さんも来てね、携帯では物足りないからって…」
「えー。あの二人も来たの。あいつら携帯で充分だなんて言ってたのに、パソコン始めたのか
…」
「なんでも最近買ったんだって。知らなかったの。良くいろいろ聞きにくるのよ。」
佐々木は腹立たしい気分になってきた。一歩先んじるつもりが、一歩も二歩も遅れてしまった。頭がガンガンしてきた。
「これが私のアドレスよ。佐々木さんのも教えてね。」
そう言われて佐々木が、アドレスを書いていると
「ところで、そのフロッピー何なの」
 
と美紀が聞いた。
「あーいけねー。この用で来たんだ。このフロッピーが刑事課に送られてきたんだけど、Excelなんで良く分からないんだ。見て欲しいんだ。」
「分かったわ。Excelは奥の深いアプリケーションだから、私もすべて分かっているわけではないけど。」
そういって美紀は、フロッピーをパソコンに差し込んだ。 しばらくいじっていると急に驚きの声を上げた。
大変よ!殺人予告よ、佐々木さん。」
「えー。まさか、ホント。」
そう言って佐々木が覗き込むと、確かにそこには、「殺人予告。俺は、一週間以内に人を殺す。」とある。
「これは、本気かな。冗談だろう。しかし、さっき刑事課で見たときには、何もなかったけど何処に入っていたの。」
Excelのシートは大きいからね。この250行目にあるのよ。」
「あーそうか。ありがとう。まあ、こう言うのは、冗談にして欲しいね。」
佐々木は、そう軽く言いながら顔はすでにこわばっている。
「じゃ、とりあえず解ったから刑事課へ戻らなきゃ、また教えてね。」と言いつつフロッピーを手に慌てて出て行った。
 廊下の佐々木は、刑事課に向かって駆け出していた。

(1)謎のフロッピー 終わり   

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