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傾いた場所 (4)

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ふう。。
何だまた夢か。夢なのか。男は小さく目を開けた。それにしても、この夢は俺の過去なんだろうか?
記憶を失ったために夢で思い出しているのだろうか?

「トシ、トシ…」

「トシユキ、稔幸、稔幸?」
小さく声を出してみるが、男には何も思い浮かばない。

「アキ、亜紀子、亜紀子?」
同じく声を出してみるが、何も思い出せない。亜紀子は俺の彼女なのだろうか。。

建築の勉強か。場所は大学だな。
ふう、結構輝いていたんだな。青春か?男は少し笑ったが、急に不安になった。
「ところで俺は幾つだ?」
男は上体を起こし、自問自答してみた。ふと、手を見た。手は汚れていた。40歳前後の手をしていた。

男は、夢が真実なら、俺は建築家を志して大学まで行ったことになる。同じく建築家を志した彼女がいて、輝いていた時があったと言うことになると思った。しかし、今はここにいる。この傾いた場所に。記憶を失って。。何故だ?

男は考えれば考えるほど襲ってくる頭痛に耐えながら、思い切って立ち上がった。薄汚れたカーテンの隙間から、外を見た。窓の外は、曇り空の下に広がっていて、少し遠くに人が行き交っていた。車の騒音も聞こえてくる。夕刻の暗さが近づいていた。

今度は室内をよく見た。床が少し傾いているが、柱は垂直に立っているように見えた。内装の壁紙は所々破れている。

「俺が建築を勉強したのなら、この建物をみれば何か思い出すかもしれない。何かヒントはないものか」
と思いつつ見渡すが、何も思い出せない。何も思いつかなかい。

「あ、あそこに新聞が」
と部屋の隅に積まれた新聞の山に気づき、近づこうとした時であった。激しい頭痛がまた男を襲った。しゃがみ込むと同時に倒れるように再び横になった。

「酒、酒だ、飲むしかない」
男は、右手で酒瓶を探し、掴んで一気にあおった。

酔いの中で男は再び自問した。
「トシ、トシユキ、稔幸…」

「アキ、アキコ、亜紀子…」

願望に似た自問を繰り返していた。

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